LED表示幕撮影 理論
2014年7月7日 ドット数修正、横ラインの表示速度、余談を加筆

はじめに
特集「LED表示幕撮影方法」でLED表示幕が切れたり、ずれたりする原理について説明し、 理論的に最適なシャッター速度を求める方法について述べたい。
LED表示幕の動作原理と事例
管理人の調査によれば、阪急電鉄のLED表示幕は横方向に3分割されたLED表示機により構成されており、 1分割当たり縦22ドット×横140ドット、総画数縦66ドット×横140ドットで構成されている。

ここで動作原理を簡単に説明するために、図1のような赤地に白字の「特急」という表示幕を例として用いることにする。 図1の縦方向はa1〜a8、b1〜b8、c1〜c8の8ドットラインのグループ3つとし、 横方向は32ドットのラインで構成されているとする。

図1 「特急」表示幕



LED表示幕はグループ毎に、上のラインから順に人間の目では判別出来ないほどの高速度で1ラインずつ表示していく。 図2、図3、図4は上から1ラインずつ3ライン分を表示して行く様子を示しており、仮に3ライン分のみ表示した場合は 人間の目には図5のように映ることになる。もちろん、フィルムカメラやデジタルカメラにおいても同様な写真が得られることになる。

ここで、縦ラインだけでなく横ラインも1つ1つ表示するのであれば横にも切れるのでは?とお思いの方もおられると思う。 理屈上はそうなる訳であるが、縦ラインの表示スピードに対して横ラインの表示スピードは数10倍速いスピードで点灯させる。 管理人の調査によれば、横1ドット当たり約1/832,000秒の速度で表示されており、1ライン分が約0.0017秒(=0.17ミリ秒、1/6000秒、6kHz)の速度で表示されている。 そのため、通常のカメラではこのスピードに追従出来ず、写真を撮ればほぼ1ライン分描画された形となる。 詳しい原理にご興味の方がおられたら、「アクティブマトリックス」「LED表示ドライバ」「ソースドライバ」「ゲートドライバ」等のキーワードで 検索して頂きたい。

図2 1ライン目描画したとき図3 2ライン目描画したとき
図4 3ライン目描画したとき図5 3ライン分描画したとき



例えば6ライン分描画している時間の間だけシャッターを切った場合には、図6のように表示幕が切れて撮影されることになる。 1ライン描画するのに1/1200秒かかっていると仮定した場合、6ライン分では1/1200秒×6ライン=1/200秒のシャッター速度に相当する。 完全に表示された状態で撮影したいのであれば、1/1200秒×8ライン=1/125秒が最適なシャッター速度となる。

ここで問題となるのは、列車が動いている場合に遅いシャッター速度で撮影すれば、ズレたように撮影されてしまう点である。 静止している場合や正面に向かっている場合は多少シャッター速度が遅くても問題ないが、高速度で動く列車に対して角度を付けて撮影すると 図7のようにLED表示幕がドットズレを起こしたように撮影されてしまう。 これは列車が移動している間も点滅しているのが理由で、被写体ブレの現象がLEDに起きた場合はこのような画像になるのである。

図6 6ライン分描画したとき図7a 6ライン分描画中に移動したとき図7b 実例



列車が停止している場合には通常遅いシャッター速度で撮影するのがほとんどと思われる。 このとき、LED表示幕が完全に撮影されたとしても図8のように色の異なる横筋が入っている経験はないだろうか。 これは、8ライン分表示されたものに加えてさらに4ライン分が描画されているためで、 カメラから見れば露光時間中に2回分の光が入ってきたことになるので濃淡差のある写真となるのである。 もしこの状態で列車が動いているのであれば、昔のアナログテレビのゴースト現象が起きたように文字がズレて撮影されてしまう。 中途半端に遅いシャッター速度ではきれいに撮影出来ないというものである。

図8 全ライン描画したあとさらに4ライン分描画したとき図9a 描画中に移動したとき図9b 実例
理論で求める最適なシャッター速度
最適なシャッター速度を求める前に、まずは実際に取りたい列車を表示幕が切れてしまう速めのシャッター速度で、3種類程度撮って頂きたい。 例えば阪急の場合、1/1250秒、1/640秒、1/320秒の3種を用意すれば高く予測出来る(あくまで管理人の主観)。 撮影した後、表示幕の1グループ分がどこまで写っているかを比率(パーセント)で求めて頂きたい。 例えば図6の場合、a1〜a6までが写っている範囲で、a1〜b1手前までが本来全部写る範囲なので、 この例では6ライン/8ライン×100=75%が表示されている率となる。

管理人が調査した結果、阪急の場合は1/1250秒で32%、1/640秒で50%、1/320秒で86%が表示されていた。 ここで、横軸を時間(1/320秒のシャッター速度ならば0.003125秒)、縦軸を表示率として回帰分析(y=ax+bのグラフ)すると、 「表示率=23000×シャッター速度+14」の式が得られた。例えば1/500秒の場合は23000×(1/500)+14=60%となり、半分ちょっと写すことが出来ることになる。 「1/シャッター速度=23000÷(表示率−14)」でシャッター速度の逆数を求めることも可能である。

この式は、管理人のカメラで最速シャッター速度でも14%分の表示がされることを意味しており、 表示幕から表示部分を完全に無くすことは出来ないことを示している。 もし約1/832,000秒の速度で撮影出来るカメラがあれば、原理上完全に無くすことが可能である。

この式より、ちょうど100%で表示幕を写したいのであれば約1/270秒で撮影すれば良いことになる。 ここで、図8のように色の異なる横筋が入らないようにするのであれば200%、300%、400%とキリの良い表示率になるように シャッター速度を設定すれば良い。単純に100%のときの約/270秒を基準とするならば、 200%なら約1/270秒の2倍である約1/135秒、300%なら約1/90秒、400%なら約1/68秒となる。 管理人の経験上、1/90秒よりも遅い場合は横筋が目立つことはないので、これより遅い速度の場合は心配無用と思われる。 なお、最適なシャッター速度はカメラの性能にも左右されるので、上記速度できれいに撮れるかは各自で確認し、適宜補正頂きたい。
まとめ
阪急の場合は、LED表示幕に表示される率である表示率とシャッター速度の間には、
 「表示率=23000×シャッター速度+14」又は「1/シャッター速度=23000÷(表示率−14)」 ※表示率100%までが誤差が少なく近似出来る範囲
の関係式が成り立つ。

きれいにLED表示幕を撮影するためには100%、200%のようにキリのいい表示率にすれば良く、
 100%:約1/270秒、 200%:約1/135秒、 300%:約1/90秒、 400%:約1/68秒
のようにシャッター速度を設定すれば良い。但し、カメラの性能に左右されるので上記値を参考に適宜補正すること。
余談
他の鉄道の表示幕にもこの考え方が成り立つため、LED表示幕の分割数、シャッター速度と表示率の関係さえ分かれば 簡単に100%きれいに表示されるシャッター速度を算出することが出来る。

ただし、ビデオ撮影の場合は撮像素子(CCD、CMOS)の画像情報をどのようにLSI等でデジタル処理するかに依存するため、 ユーザー側での制御は難しい。

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