阪神急行電鉄 沿線案内 大正10年 その2

2009年3月1日更新

@沿線御案内
沿線御案内には、阪神急行電鉄各駅の名勝などが書かれています。 現在の駅名に対し、西宮北口は「西ノ宮北口」と「ノ」の字入り、門戸厄神・甲東園は「門戸厄~前」「甲東園前」と「前」の字入り、旧雲雀丘は「雲雀ヶ丘」と「ヶ」入りと表記されています。 牧落は当時開業していたはずですが記載されていません。
以下、主な駅の説明文を現在の表現に直して記載します(旧字体、カナ表記を修正、適宜スペースを挿入)。

駅名 説明文 備考
梅田 大阪の大玄関官鉄大阪停車場の東隣にして大阪市電各方面行枢要第一の集合地点なり 午前五時より夜の十二時三十分迄神戸行、宝塚箕面行 能勢妙見行 等最新の軽快なる「ボギー」電車運転 【官鉄】官営鉄道のこと、旧国鉄、現在のJR  【枢要】重要なの意  【ボギー】車体に対して台車を独立して動かすことの出来る構造を採用した車両のこと、昔は台車は車体に固定されているのが一般であった
北野 阪神電車の北大阪線と交叉連絡せり 付近に北野中学校、梅花女学院、梅田女学院、市立工業高校等ある 大日寺は北一丁 業平寺北二丁 当駅は1949年(昭和24年)1月1日に休止、事実上廃止となっている 【大日寺、業平寺】現在該当する寺無し 【丁】約109m
新淀川 新淀川の南岸にて付近工場多し 当駅は1926年(大正15年)7月2日に廃止
十三 新淀川の北岸にあり名物あん焼にて名高し
付近工場多数、神戸線、宝塚線并に北大阪線の分岐点
【あん焼】現在では十三焼きといい、十三西口改札の真正面にある「今里屋久兵衛」で売られている  【并に】さらに、並びにの意  【北大阪線】北大阪電気鉄道のことで、十三〜千里山を運行していた、後の京都線・千里線
塚口 伊丹支線は此所にて乗換え 付近菜花の名所にて塚口土地会社の経営に係る住宅地あり 東南十八丁に近松門左衛門の墓あり
伊丹 酒の名産地にして近時又諸種の工業発達し由多加織等有名なり 県立伊丹中学校あり 【近時】近頃の意  【諸種】さまざまなの意  【由多加織】織物の一種、浴衣とは異なる
西ノ宮北口 宝塚行分岐点にして付近甲陽土地 西宮土地会社の経営に係る住宅地あり 蛭子尊の総本社戎神社は西南十七丁 【蛭子尊】えべっさんのこと
小林 東北一丁余に武庫山平林寺あり 聖徳太子の開創にして安置する本尊は釈迦如来なり 弘法大師の霊作にして境内に臥龍松あり その齢幾百年を経たるかを知らず蟠れる 南枝数十丈に及ぶ 【南枝】梅を指すと思われる(不明)
逆瀬川 逆瀬川の南岸にて北摂一帯の遠望に富み野外行楽の好適地理想的住宅地なり 下流に沿い宝甲土地会社の経営地あり 又付近一帯の松茸を産す
夙川 付近野外行楽の好適地にして又理想的住宅地なり
官幣大社広田神社は東北十丁 桜花とつつじの名所なり 有名なるカルバス温泉甲陽園は北十三丁 ラジューム温泉苦楽園は北十五丁にあり 園は所謂六甲アルプスの中腹に在りて海抜四百尺 広袤数十万坪天与の景勝旅館、料亭、茶席、貸別荘其他の娯楽機関完備す 山上迄自動車の便あり
【カルバス温泉、ラジューム温泉】かつて存在した温泉  【広袤】広さの意 【天与】天から与えられたの意 
六甲 北に六甲摩耶の諸山を負い風光明媚なり 六甲山上迄二十丁 東洋第一のゴルフ遊技場 外人村落あり
神戸 市電上筒井停留場に接続し各方面に連絡交通至便なり 後に上筒井駅となる、1940年(昭和15年)5月20日 に廃止
豊中 停留場前に当社経営の住宅地 新屋敷住宅経営地あり 凡ての設備完全 銀行、会社等の社宅、合宿所等多数あり 又理想的大グラウンドあり 広さ一万坪 【凡て】全ての意  【グラウンド】豊中グラウンドのことで、1922年(大正11年)に無くなっている
石橋 箕面支線の分岐点にして東南一、二丁待兼山の時鳥にて名高き待兼山には大阪医科大学予科あり 又西北二丁に郡立農商学校あり 【時鳥】ほととぎす  【予科】旧学制の大学予科のこと、本科に進む前段階としての課程を指す
箕面 箕面公園の紅葉は天下に冠たり
滝あり高さ二百尺 谷あり 流れ十八丁 山容水態他に比類なし、 春は満山の桜花爛漫たり、夏の新緑は清流と相待て絶好の避暑地として有名なり 大阪より涼しき事十度、梅田より僅に三十分にて達す
瀧安寺は公園一の橋より北六丁、有名なる弁財天を祀る西国二十三番札所勝尾寺は箕面の滝の奥 三十丁にあり 西方十丁ラジューム温泉あり 四季浴客多し
池田 酒の名産地にて北摂唯一の物資の集散地なり 当社経営の室町新市街は停留場前にあり 梅田より 僅に三十分 此地北方に五月山の翠巒を負い猪名川の清流に添う府立師範学校あり 回生病院あり 又有名なる大広寺あり 新市街室町の中央に呉服神社あり 機織、裁縫の祖呉媛、漢媛を祀る 【翠巒】緑の漢語表現 
能勢口 能勢妙見参詣及び三ツ矢平野水工場平野地方に行く能勢電車の分岐点なり 梅田にて能勢妙見行の連絡切符を発売す 現駅名は川西能勢口
花屋敷 宏荘美麗なる桃園温泉場あり 花屋敷、桃園、満願寺土地会社経営地にて水道の設備完成せる住宅地にして 福知山線池田駅前に連絡す 当駅は1962年(昭和37年)5月1日に雲雀丘花屋敷と統合され廃止
雲雀ヶ丘 沿線第一規模広大なる雲雀丘住宅地のある所 当駅は1961年(昭和36年)1月16日に雲雀丘花屋敷と統合され廃止
平井 北五丁有名なる長尾山荘及最明寺滝あり 当駅は1944年(昭和19年)9月1日に山本駅と統合され廃止
清荒神 日本第一清荒神清澄寺は荒神川に添いて行く *十丁境内頗る広く四方翠巒に囲まる真に別乾坤の趣あり 停留場付近は八阪梅林、米谷梅林約二万坪皎潔雪の如し *部は┐と書かれているが判読不可  【別乾坤】世俗とかけはなれた世界の意  【皎潔】白く清らかで汚れのないの意 
宝塚 武庫川の清流に臨む結構雄大なる新温泉には種々娯楽機関完備し一日の清遊に適す 宝塚少女歌劇は大余興場にて四季公演す、旧温泉は蓬莱橋の対岸にあり 鉄*質にて万病に効あり 両岸各所に炭酸泉の設備あり 四季浴客多し 付近に丁字の滝あり 旅館料亭等の設備完備し何れも客室清楚眺望最佳 *部は判読不可
A普通乘車賃金
神戸線は「阪~急行線」と記載されており、当時競合していた阪神電気鉄道に対して「急行=速い」という印象を与えるためと思われます。 神戸線と宝塚・箕面線とでは料金設定が異なっており、宝塚・箕面線の方が神戸線の8割の値段になっています。 神戸線には2区間以上利用する往復券に割引制度があったのに対し、宝塚・箕面線には設定されていません。 その他、宝塚・箕面回遊券や神戸・宝塚間の特別往復割引券(本来なら74銭のところ、64銭の設定)があり、観光地宝塚への乗客誘致に力を入れていたことが伺えます。

この運賃表においても門戸厄神・甲東園は「門戸厄~前」「甲東園前」と「前」の字入りであることから、当時これらの駅は「前」の名前入りで開業し、 いつのまにか「前」が無くなって現在の駅名になったものと思われます。残念ながらこれに関する史実は今のところありません。
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